職場の支援事例

不妊治療

社員のライフステージや社会の変化に合わせ、
支援制度を柔軟に策定&アップデート

株式会社エムティーアイ

コーポレート・サポート本部 人事部 人事部長

岩渕 由希 氏

新宿区に本社を置く1996年設立のIT企業「株式会社エムティーアイ」。生理日や排卵日を予測するアプリなど生活に役立つコンテンツの配信で知られ、2012年にはヘルスケア事業本部を設置して同分野に本格参入しています。

こうした自社サービスの特性もあり、不妊治療を受ける社員への支援制度も拡充。
その内容や成立の背景についてコーポレート・サポート本部 人事部 人事部長の岩渕 由希さんに伺いました。
岩渕由希氏の写真
株式会社エムティーアイ
コーポレート・サポート本部 人事部 人事部長
岩渕 由希 氏
■会社が社会保険料を負担する休職制度や月2回まで取得できる休暇制度を用意
― 始めに、エムティーアイの社員支援制度について概要をお聞かせください
何よりも各自の働き方をサポートする制度を充実させています。妊娠や育児、介護などの各ライフステージで利用できるものに加え、オフィス外でも業務に取り組める「テレワーク制度」や、7時から22時までの間で、ライフスタイルに応じた就業が可能な「スーパーフレックス制度」などがあります。
コロナ禍が落ち着きを見せてリモートワークから出社に戻す企業が増える中、当社では引き続きテレワークとフレックスを積極活用しているのも特長だと思います。いずれも多様な働き方を提供するための施策です。
― さまざまな制度がある中、不妊治療に利用できるものを教えてください
まず、最長で2年まで休職できる「チャイルドプラン」があります。期間中は無給ですが本人の社会保険料を会社が負担し、経済的にフォローしながら治療に専念してもらう制度です。
また、治療と仕事を両立させたい人のために「ファミリーサポート休暇」「よりそい休暇」もあります。
どちらも男女共に取得でき、前者は月2回まで、後者は月の総労働時間(フレックスタイム制)からよりそい休暇分(7.5時間/日)をマイナスすることができます。中でも「よりそい休暇」が使いやすいようですね。
― 各制度の基礎になっている、貴社のカルチャーや価値観についてお聞かせください
当社では事業活動を通じて「持続可能な未来社会」の実現を目指しています。そのためには社員の一人一人に力を発揮してもらうことが不可欠であり、“個”を重んじる風土をとても大切にしています。
例えば、私はエンジニアとして新卒入社しましたが、「より大きな枠で会社全体に働きかけるようになりたい」とキャリアチェンジして人事部に来ました。こうした公募制度を設けることも、一人一人の価値観を尊重する風土が根底にあるからこそと感じています。
そして人事部では、「各自が長い間、高いパフォーマンスで活躍するには何が必要か」との視点であらゆる制度を策定しています。一方で「プライベートを含め、社員を取り巻く状況もまた一人一人で異なる」という背景にも着目しています。同じチームのメンバーや同期でも、現在のライフステージや家庭環境は互いに異なりますよね。全ての社員にフィットする制度は作れないかもしれませんが、できるだけ多くの選択肢を用意し、誰もがその人らしく働ける職場づくりに努めています。
― “個”を重んじる風土は、経営者の考え方や方針によるところも大きいのでしょうか
そうですね。代表取締役社長である前多からは、「経営方針を念頭に置きつつも、あなた自身はどんなチャレンジをしたいのか」という姿勢を求められます。前多の言葉の端々にも“個”を大切にする思いがよく現れており、社員は自分の目標を見つけ、自由に意見し、一緒に働きやすい環境を目指します。
そのために、一人一人の価値観を大切にし、向き合うことを目的とした組織的な研修も行っています。このように前多の考えが当社のカルチャーや価値観に浸透しており、それがさまざまな支援制度にもつながっていると感じます。
■不妊治療を受ける本人の希望や世間の声、他社の事例を基にニーズを把握
― 不妊治療の支援制度を策定された経緯や、当時の社内状況はいかがでしたか
不妊治療に利用できる最初の制度は、最長2年まで休職できる「チャイルドプラン」です。策定された2013年以前はテレワークが無く、フレックスもコアタイムがあって毎日の出社が前提でした。そのため通院には有給休暇を取得するのが一般的でした。当時は女性社員の平均年齢が31.1歳と今よりも若く、治療に対するニーズが低かったという背景もあります。
そんな中、実際に治療を受けていた女性社員から「通院と仕事の両立が難しいので休職または退職しようと悩んでいる」と相談を受けたのが導入のきっかけです。
当初は傷病手当を使って休職できるか検討しましたが、代表の前多から「不妊治療のために休める制度が無いなら、今後のためにも作ればいい」と助言があり、人事部主導で「チャイルドプラン」を策定しました。結果的に退職を防げて大きなメリットが得られましたね。
― 相談を受けてから導入までにどのようなプロセスを経られたのでしょうか
策定に要した期間は2カ月ほどです。まずは本人が退職せずに済むよう、現状や希望の聞き取りから始めました。さらに当社が提供する健康情報サービスのユーザーアンケートの結果や、女性活躍を推進している他社の事例を参考に、治療を受ける人のニーズを把握しました。そしてコストも試算した上で、社内決議まで進めていきました。
メモを取るイメージ画像 ※画像はイメージです
なお当社は、社員およそ800名のうち女性は4割で、その中心層は同じく4割を占める30代です。また、女性向けのヘルスケアサービスを提供していることもあり、以前から不妊治療に対する社内の関心は高かったですね。
そのため導入への反対意見は上がりませんでしたが、社員間で理解度に差があり、そもそも若手や男性は制度自体を知る機会が少ないのではと考えました。そこで治療や女性の体のメカニズムについて学ぶセミナーや、自身の知識レベルを把握するアンケートを実施して浸透を図っていきました。現在もアンケートの結果を配信するなど同様の取組を続けています。
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■不妊治療のための休暇は男女を問わず取得可能。一人一人の状況を鑑み複数の制度を策定
― 不妊治療に利用できる複数の支援制度を設けた理由を教えてください
不妊治療は病院に行かないと通院のスケジュールや診察の所要時間が分からず、仕事との両立が特に難しいと認識しています。急な予定変更もあるため休暇やフレックス、テレワークなどを組み合わせた柔軟なサポート体制が必須だと考えました。
根底にあるのは、やはり「一人一人がエムティーアイで働き続けられるように」との思いですね。各自がキャリアを形成する上で、それぞれのライフプランに対応できる仕組みを整えるのが私たち人事部の役割でもあります。
また、導入当初の「チャイルドプラン」は1年までしか休職できませんでしたが、実際に運用する中で2年に延長しました。このように支援制度は策定して終わりではなく、世の中の流れや社員の要望に合わせてアップデートさせる必要があると感じています。定期的に意見を聞き、内容に反映させる活動は今後も続けていきます。
― 月2回まで取得できる「ファミリーサポート休暇」はなぜ導入されたのでしょうか
導入は2014年です。前年にできた「チャイルドプラン」が休職制度のため、利用するのに抵抗感のある社員が一定数いると分かり策定しました。もちろん不妊治療は男性が受けることもあり、あるいはパートナーの通院に付き添うケースも考えられます。そのため性別を問わず取得できるようにし、出社と通院の両立がより容易になるよう期待して作りました。
さらにフレックスとテレワークを併用すれば十分に通院の時間を確保できます。この2つは事前申請も不要で、中でもフレックスは出勤や退勤、中抜けもしやすいため広く活用されています。
■有給休暇と同様の申請方法を採用するなどプライバシーに配慮。人事部では休職者の上司も支援
― 不妊治療はデリケートな内容ですが、社員が安心して支援制度を利用するためにどのような配慮や工夫をされていますか
「不妊治療のための休職や休暇は申請しにくい」「上長に相談しづらい」「周りの人に知られたくない」といった声があるので、特に情報の共有範囲に注意しています。直属の上司以外が取得理由を知らないようシステム上でも設定し、一般的な有給休暇と同じように申請できるのが工夫した点ですね。
加えて「チャイルドプラン」「ファミリーサポート休暇」など不妊治療を直接的に意識させない制度名を採用し、取得する人のストレスを和らげることも心掛けました。
― 休職するとキャリアへの影響を気にする方もいると思いますが、どのようにフォローしているのでしょうか
取得前に人事部との面談を用意したり、保健師や産業医に悩みを打ち明けてもらったりして心理的安全性を確保できるよう努めています。
その上で「戻ってきたらまた活躍してほしい」という上司からのアプローチや、復帰後に改めて自身のキャリアと向き合う「復職オンボーディング」も取り入れています。さらに、今後の方向性について相談できる1on1ミーティングも定期的に行われています。
相談するイメージ画像
※画像はイメージです
一方で人事部には、治療を受ける社員の上長から「『いつまで休むのか』『戻ってきたら何をしたいのか』など、本人にどう質問すればストレスを与えないのか教えてほしい」といった相談が寄せられます。この点では専任の部門担当をつけ、一緒に計画を立てているのが特長ですね。
また、不妊治療は上司の理解だけでは足りず、周りにいるメンバーのサポートも重要です。そのためにも関連するセミナーやアンケートは全社的に実施し、みんなで意識を高められるよう工夫しています。
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■自社サービスのユーザーにも「制度の整備に取り組む会社」を印象付け納得感の向上へ
― 貴社は「健康経営優良法人(ホワイト500)」「えるぼし認定(3つ星)」「くるみんプラス認定」にも選ばれましたが、不妊治療の支援制度がどのような影響を与えているとお考えですか
まずはワークライフバランスを意識した制度の策定が「健康経営優良法人(ホワイト500)」の認定につながったと思います。また「えるぼし認定(3つ星)」「くるみんプラス認定」では、不妊治療のサポートをはじめ女性の活躍を推進する取組が高く評価されたと認識しています。
加えて「制度の整備に取り組む会社」というイメージが世の中に広まり、自社サービスのユーザーの納得感を高めているとも感じます。
― 制度導入の前後で利用した社員にパフォーマンスの違いは見受けられましたか
「チャイルドプラン」策定のきっかけになった社員は、制度ができる前は有給休暇を使って通院していました。しかし病院でも仕事の連絡を受けたり、休んだ日の会議を録画して内容を確認したりして、相当な負担がかかっていたと聞いています。
しかも薬の副作用で体調不良の時もあり、心身の疲労が仕事にも影響したようです。そこで思い切って休職制度を使い、治療に集中できたのは本当に良かったと思います。
不妊治療は周囲に打ち明けにくい内容ですが、例えば同僚とのミーティングで個々の関係を築きながら相談のハードルを下げることも考えられます。治療に向けてどんな支援が必要なのか、素直に話せる環境を整えられてきたのではないかと感じています。
■支援制度は繰り返し見直すことが大切。ともに考える機会を
― すでに充実した制度を運用されていますが、課題があればお聞かせください
テレワークやフレックスが便利で広まっているがゆえに「本当は休職を希望していても申請しにくいのでは」という点が気になります。単に「チャイルドプラン」の利用率を上げるのではなく、常に「現制度は社員にマッチしているのか」と意識し、繰り返し見直すことが大切でしょう。
それぞれ「働き方の選択肢をどれだけ増やせるか」という主旨で作られた制度ですが、不妊治療は仕事との両立だけではなく、費用面や心理面での障壁もあります。会社がどこまで支援するのか、まだ議論の余地があると認識しています。
― すでに不妊治療をサポートしている、あるいはこれから支援しようと考える企業にメッセージをお願いします
不妊治療は通院の日程が読めなかったり、急な変更が生じたりと、仕事との両立は想像以上にハードです。企業として柔軟な働き方を用意するのはもちろん、社内の理解を深めることが非常に重要だと考えています。会社を支える一人一人に働きかけるとともに、より大きな視点では社会の認識を変えようと試みることも必要かもしれません。だからこそ「まずは一歩を踏み出そう」「困っているメンバーに声をかけてみよう」という姿勢で組織づくりに臨んでいただけたらと思います。
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私たちもいまだに理想を探し続け、おそらくゴールを迎えることも無いでしょう。不妊治療への支援という点では企業間の協力も鍵になるので、他社の皆さんとも一緒に考え、共に前進できたらうれしいです。
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Interviewee

― 企業紹介

株式会社エムティーアイの会社ロゴ
株式会社エムティーアイ

1996年設立。従業員数1,209名(連結・2025年3月31日時点)。主な事業内容はコンテンツ事業、ヘルスケア事業、学校DX事業、その他事業(AI、法人向けDX支援など)。


創業以来、時代の変化を先取りし、その時々のニーズに応じた多様なサービスを創出。ヘルスケア、音楽・動画・電子書籍、天気・防災、エンターテインメントなど、人々の暮らしを豊かで便利にするさまざまなコンテンツを、アプリやシステムを通じて届けている。

また近年は、自治体や医療機関、教育機関など、幅広い業界と連携し、社会課題の解決を目指すソリューションを提供。事業活動を通じて、社会システムをより便利で効率的なものへと進化させ、持続可能な未来社会の実現に向けて挑戦している。

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