港区を拠点に「生き方支援カンパニー」として、人々のキャリアや人生の意思決定に伴走するポジウィル株式会社。
2017年の設立以来、「どう生きたいか?」を軸にキャリアのパーソナルトレーニングや人的資本CX研修などを展開し、固定観念からの解放を支援してきました。
今回は代表の金井芽衣さんに、従業員の声をもとに1週間で導入した“不妊治療支援制度”の背景と、個々のライフイベントに寄り添う企業文化づくりについて伺います。
2017年の設立以来、「どう生きたいか?」を軸にキャリアのパーソナルトレーニングや人的資本CX研修などを展開し、固定観念からの解放を支援してきました。
今回は代表の金井芽衣さんに、従業員の声をもとに1週間で導入した“不妊治療支援制度”の背景と、個々のライフイベントに寄り添う企業文化づくりについて伺います。
ポジウィル株式会社
代表取締役
金井 芽衣 氏
■全従業員を対象にしたキャリア支援。4つのLで描く「自分らしい生き方」
― まずは貴社の「生き方支援カンパニー」としての理念をお聞かせください
今の50代や60代の世代では、「有名大学に入り大手企業に就職すること」を人生の目標と する方が多かったように感じています。一方でその子ども世代である20代や30代の方々を見ていると、近年は「親の理想をかなえるだけが私の生き方ではない」という意識を持つ方が増えているように思います。
しかし同時に「とはいえ、どのように生きればいいのか分からない」と悩む若者も増えています。そんな皆さんを“人生とはこうあるべき”という束縛から解放し、自分軸でキャリアを考えられるよう寄り添うのが「生き方支援カンパニー」の役割です。
この理念はサービスの利用者様のみならず、当社の従業員に対しても同様で、充実したキャリア支援制度を整えています。
― 貴社のキャリア支援制度について教えてください
全従業員を対象にキャリアセミナーを開催しています。各自がライフプランを含むWill(やりたいこと)、Can(できること)、Must(果たすべき役割)を整理し、どのような人生を送りたいのか考える機会を提供しています。
キャリア関連の社内コミュニケーションも盛んで、先日も4つのL(Labor:労働、Love:愛、Leisure:余暇、Learning:学習)について話し合いました。各自に「現在の自分のバランスはどうか」「3年後や5年後にはどんな割合にしたいか」と書き出してもらい、社内で共有しています。
さらに従業員は、配偶者などパートナーとの関係改善を図るコーチングも受けられますね。
さらに従業員は、配偶者などパートナーとの関係改善を図るコーチングも受けられますね。
従業員には仕事で能力を発揮しつつ、良い人生を送ってほしいと願っています。せっかくキャリア支援をうたう当社に入ったのだから、素敵な“これから”を歩むきっかけにしてくれたら嬉しいです。
■ライフイベントを喜ぶ人も嘆く人もいる。従業員の「つらい」を聞いて不妊治療休暇制度を策定
― 不妊治療や不育症治療に利用できる支援制度について教えてください
当社では2022年に不妊治療休暇制度を設けました。性別を問わず最長で1年まで取得でき、会社との協議次第で延長も可能で、その間は無給ですが賞与や年次有給休暇の算定時に欠勤扱いにはなりません。すでに4人が利用しています。
また、創業時から導入している短時間勤務制度は2024年から不妊治療にも適用範囲を広げました。
― 不妊治療の支援制度を導入された経緯をお聞かせください
現在当社には約20人の従業員が在籍しています。男女比はほぼ半々で、うち女性の平均年齢は30歳前後となっています。ちょうど不妊治療に関心を寄せる世代で、実際に社内でも話題に上ることもありました。
私自身も仕事に夢中で結婚が遅く、不妊治療を受けました。同じ境遇にある同年代の知人からは「出産できてうれしい」との声もあれば「喜びの報告を聞くのが苦痛」という意見もありました。妊娠や出産というライフイベントにおいて、誰が、何を、どう感じるのか、深く考えさせられました。
だから当社の従業員についても、各自の現状を理解するよう努めてきました。ありがたいことにメンバーとの距離が近く、男女を問わず妊娠や出産の話題をオープンに話せる社風なので、私も毎日のように公私にわたる相談を受けているような状況でした。
そんな中、女性従業員から「通院に専念するため仕事を休みたい」と打ち明けられたのが不妊治療休暇制度を作ったきっかけです。本人からは「会社に負担をかけるのがつらい」との言葉もありました。「このままではいけない、何とかしなければ」と思い、さっそく役員や社会保険労務士を交えて1週間程度で制度を策定しました。
不妊治療のような個人的でデリケートな事情は、会社側の理解がなければ乗り越えるのは困難です。私もその苦労がよく分かるので休暇制度の成立は即決でした。
その後、休暇制度に続いて短時間勤務制度の不妊治療への適用を決めました。通院スケジュールの不確定さや心身のコンディションの不調など、本人にしか分からない苦労があると理解したからです。
当初は休暇制度を活用して週3日勤務としましたが、不妊治療はフェーズが進むと受診が連続することもあり、それだけでは対応しきれないと分かりました。そのため時短勤務も組み合わせて試験運用を行い、より柔軟に利用できるようにしました。
― 不妊治療の支援制度がスタートし、従業員の反応はいかがですか
制度を発表すると「素晴らしい」「良かった」といった声が届きましたね。女性はもちろん、当社の事業内容からして家庭を大切にする男性メンバーも多く、歓迎ムードでした。
■後悔しない意思決定のために、AMH検査を無償で提供。臨床心理士による心のメンテナンスも
― AMH検査を無償で提供しているとお伺いしました
そうなんです。AMH検査(卵巣予備能検査)は卵巣にどれだけ卵子が残っているのか調べる検査で、当社の女性従業員は無償で受けられます。
私が産婦人科に通う中で、海外の一部の国では女性が10代からAMH検査を受けて自身の卵子数を把握し、キャリア形成に活用していることを知りました。一方で私自身は脇目も振らず働き、第1子を迎えたのは33歳です。「2人目を産むなら30代後半だろうか……」「若いうちに卵子を凍結しておけば良かった」と、今も考えることがあります。
だから従業員には、後悔しない意思決定のためにも、同じ港区にあるクリニックと提携してAMH検査を無償で受けられるようにしています。結果を知って働くペースを調整し、無事に子どもを産んだメンバーもいます。
― 不妊治療を受ける従業員の心理的負担を和らげるために、貴社ではどのような取組をされていますか
不妊治療を受ける従業員に限定していませんが、週に1度のペースで臨床心理士がオフィスに常駐し、従業員が何でも相談できる場を設けています。当社の事業はキャリアやライフスタイルに不安を抱える方々のサポートなので、まずは自分たちの心をメンテナンスできる環境を用意しています。
業務関連の話題のみならず、仕事と妊娠や出産について話す従業員もいます。あるいは「子どもが学校になじめずにいる」といった、家庭での悩みを聞いてもらう従業員もいるようです。
私が思うに、仕事や勉強は努力次第で一定の成果を見込める一方、不妊治療はどんなに頑張っても報われない可能性があります。そして夫婦関係の悪化など、治療を受ける本人にしか分からない、行き場のない不安がのしかかってくるものだと思います。だからメンタルの専門家に頼ることで、少しでも楽になってほしいですね。
■不妊治療、出産、育児を乗り越えた女性が再び活躍するのがメリット
― 不妊治療への支援制度を策定したことで、会社にはどのような影響が出ていますか
妊娠や出産は女性にとって負担が大きく、私も体を動かすのがおっくうになったり、うまく頭が働かなかったりしました。経営者目線になると、従業員のパフォーマンスが下がったり、会社を頻繁に休まれるのは痛手ですよね。無事に出産を終えて職場に戻ってきても、幼い子どもはすぐに体調を崩すので、数年は実質的に以前の半分ほどしか働けないと思います。
でも、こうして精神的にも肉体的にもハードな局面を乗り越えた従業員が再び活躍できることは、当社の大きなメリットになると考えています。少なくとも私の中では「母になってたくましさを増した彼女と一緒に頑張ろう」という覚悟が芽生えます。より大きな視点に立つと、働く女性が「私には価値がある」と胸を張れる社会の実現に貢献できる気がします。
― 各支援制度が利用しやすくなるよう、どのような工夫をされていますか
※画像はイメージです
企業規模がコンパクトなこともあり、誰がどの制度を利用するのか、代表である私も把握できます。そのため各ルールに柔軟性を持たせ、個々のケースに適用できるようにしています。例えば、当社では全員の出社を基本としていますが、育休明けのメンバーは子どもの体調などに応じてリモートワークに切り替えられます。
あとは不妊治療などで短時間勤務を選択しても、収入が大幅に下がらないよう調整しています。本当は本人もフルに働きたいだろうし、限られた勤務時間内で成果を追うのは大変なプレッシャーですよね。この根底には「制度を活用しながら仕事と家庭の両立を目指してほしい」との思いがあります。
※画像はイメージです
ちなみに当社では男性従業員も1カ月ほど育児休暇を取得しており、入社2カ月目のメンバーが利用したケースもあります。さすがに入社2カ月での育休取得は私も予想していなかったので戸惑いもありましたが、結果的には良い判断だったと思います。彼は同僚のサポートに本当に感謝していて、その恩を感じて復帰後は以前にも増して頑張ってくれています。
― 経営者として、従業員が相談しやすい雰囲気づくりで意識されていることは何ですか
不安を抱えた従業員は日ごとに表情が暗くなるのが分かります。そんな時は、タイミングを見て「調子はどう?」「話を聞こうか」と気軽に話しかけています。当社の規模では経営者である私が一人一人の変化に気づきやすく、こうした日常的な声かけが自然にできる環境です。この距離感の近さが、従業員にとっても相談しやすい雰囲気を作っていると思います。
従業員の間でも「休んだメンバーをフォローするのは当たり前のこと」「困ったらお互いさま」といった意識があり、余力のある人が無い人を支える企業文化があります。加えて、従業員だけで仕事を抱え込み過ぎないよう、業務委託の皆さんの力も借りてビジネスを動かしているのも当社らしいスタイルです。
一方で出社を続け、結果を出した従業員がより報われるよう、営業部門を中心に給与や賞与において成果報酬の要素を濃くしました。反対にインセンティブよりも固定給の割合を増やすなど安定を求めることもできます。
■すべての従業員の要望を満たそうとするのではなく、まずは“困っている1人”に手を差し伸べることから
― 「ライフイベントを乗り越えていくこと」を支援する企業として、今後の展望をお聞かせください
結婚や妊娠、出産を迎えるにあたりキャリアを諦めざるを得ない女性がまだ多いと感じます。私は幸いにも夫が協力的でベビーシッターの手も借り、産後のつらい時期を乗り越えましたが、世の中を見渡せば育児も家事も1人で引き受けている女性が多いのが現状です。私でさえ、子育てを経験して「これなら仕事のほうが楽だ」と感じたほどです。
だから、育児に向き合う女性がもっと報われてほしいです。特に子どもが3歳を超えるまでは、体力も精神力も消耗し、仕事は満足にできないかもしれません。その時期を超えるまでの全力サポートを惜しまない、そんなスタンスの会社でありたいですね。
― すでに不妊治療をサポートしている、あるいはこれから支援しようと考える企業にメッセージをお願いします
仕事に熱心に取り組む女性従業員ほど、キャリアと出産のタイミングについて悩む傾向が強いかもしれません。会社が自分の人生設計をどこまでサポートしてくれるのか、不安を抱えている方が多いと感じます。入社から数年を経て仕事が波に乗ってきたタイミングと出産を意識する時期はほぼ重なるため、その苦しみや葛藤を理解できる企業が増えるといいですね。
当社サービスの利用者様と会話をしていると、「日本には年功序列、男性中心の文化が残る企業がまだまだ少なくない」という印象を受けます。女性利用者様の中には「自分のキャリアやライフプランについて、会社や男性上司には相談したくない」と話す方もいて、女性活躍推進に向けた意識改革が間に合っていないと感じます。
一方で20代や30代の男性利用者様は「昇進や高年収よりも自分の時間を優先したい」と望む傾向にあり、その上司の皆さんは「男性だから懸命に働き結果を出してほしい」との期待を寄せているという声も聞かれます。企業として利益を追求しながら、いかに性別や世代間のギャップを埋めていくのか、バランスを整えることはとても大事だと思います。
そもそも支援制度を考えるにあたって、全従業員を満足させる施策は作れないでしょう。まずは“困っている1人”に気付いて手を差し伸べ、試験的に導入や運用をして、制度を進化あるいは深化させるのが望ましいと考えます。
私自身、今後も各従業員の置かれた状況や、彼らがこれから迎えるライフイベントに細かく目を向けていきたいですね。
Interviewee
― 企業紹介
ポジウィル株式会社
2017年設立。従業員数45名。主な事業内容はキャリアのパーソナルトレーニング、動画とワークシートで深めるキャリアの月額制サービス、法人向けのキャリアトレーニング・セミナー、キャリア支援者を育てるスクール事業。
「生きづらさを抱えている人の力になりたい」という代表金井氏の想いから創業。継続的なキャリア支援で行動変容まで伴走しきるコミット型サービスを展開し、累計相談者数は35,000名以上にのぼる。キャリア=人生と捉えて一人ひとりが理想の人生を歩んでいける社会の実現を目指し、事業活動に取り組んでいる。