出産や育児などのライフイベントを迎える女性向けに、子どもの写真・動画サービスやキャリアスクール等のサービスを提供している「株式会社Timers(タイマーズ)」。
従業員への支援にも力を入れており、2021年から卵子凍結の支援制度も導入しました。
独自の制度を策定したきっかけや導入後の反響について 、代表取締役CEOの田和晃一郎さんに伺います。
株式会社Timers
代表取締役CEO
田和 晃一郎 氏
■従業員支援制度の策定条件は「社会の二項対立を溶かす」というビジョンにマッチしていること。男性の育休取得を義務化
― まず、Timersの事業内容とビジョンについて教えてください
当社は、出産や育児といったライフイベントを迎える女性が抱える課題に対してソリューションを提供している企業です。お子様の写真・動画の管理・印刷ができるスマートフォンアプリや、学習時間に合わせて無料でシッターを手配するサービスが付帯したIT・AI・デジタル領域を学べるオンラインスクールなどを展開しています。さらに、リスキリングを経て在宅で働きたい人と企業をオンラインアシスタントという枠組みでマッチングする事業も行っています。
当社が掲げるビジョンは「社会の二項対立を溶かす」です。男と女、親と子、働く人と家庭人といった、社会に根付く“二項対立”を取り払い、多様な生き方を実現できる社会を目指しています。
― 「社会の二項対立を溶かす」というビジョンは、従業員のキャリアやライフイベントを支援する制度にどのように反映されていますか
ビジョンを体現できるよう、社内制度に独自の工夫を凝らしています。代表的なのは「男性従業員の育児休暇の義務化」です。世間でも取得を推奨されつつありますが、当社ではより踏み込み、「1カ月以上は仕事を休んで子育てに専念すること」を義務化しました。収入補填もしており、他社にはあまり無いユニークな制度だと思います。
育児休暇は「男性は仕事、女性は育児」という固定観念を崩し、価値観をアップデートする貴重な機会であり、そこから社会が変わっていくこともあると考えています。
また、当社では誕生日祝いの休暇制度も充実させており、両親や子どもはもちろん、パートナーのバースデーでも会社を休めます。さらに2021年からはペットの誕生日も対象としました。「人間かどうか」という区分も一種の二項対立ですよね。ペットも人生を共に生きていく大切な伴侶ですから、従業員からのフィードバックを機に対象に含めることにしました。
― 本当にユニークな制度ですね。そのようなアイデアはどこから来るのでしょうか
当社の福利厚生制度は、社名にちなみ「Time Capsule(タイムカプセル)」と名付けています。一般的なパッケージを採用するのではなく、ビジョン・カルチャーを体現できるよう、ゼロから独自設計しています。
たとえば失恋休暇や恋人探しのマッチングアプリ補助などの制度がありますが、制度のアイデアは経営陣だけではなく、従業員満足度アンケートからも積極的に拾い上げるようにしています。アンケートは半年ごとに実施し、ペット誕生日休暇もそこから生まれました。
■妊活の時間制限も「二項対立」につながる。パートナーを含む卵子凍結への支援を決定
― 卵子凍結支援制度を導入したきっかけや背景を教えてください
もともと当社では、妊活休暇や婦人科クリニックの受診補助といった制度を導入していました。しかし「今すぐ妊活を始めるか」「仕事に集中して先送りにするか」という時間的な制約自体が、二項対立であると気づいたのです。平均年齢38歳・女性比率8割以上という社内構成からも、今後同様の悩みを抱える従業員が増えると考え、2021年に卵子凍結支援制度を導入しました。
― 制度設計にあたって参考にした事例や、導入プロセスを教えてください
当時は他社事例がほとんどありませんでしたが、スタートアップ・エコシステム*経由で卵子凍結サービスの企業様とご縁があり、アドバイスを受けながら設計しました。
導入に際しては、スタートアップとしてのスピード感を活かし、トップダウンで迅速に意思決定・導入できたことがよかったと思います。規模が小さいからこそ、まずは運用し、フィードバックを受けながら改善するという方針が取れました。
*スタートアップ・エコシステム:新ビジネスを創出するスタートアップ企業を多様な主体が連携して支援する仕組みのこと
― 卵子凍結支援制度の補助内容や対象範囲について、具体的に教えてください
会社が負担するのは最大40万円で、初期費用の全額と年間保管料の半額を補助しています。利用希望者はクリニックや卵子保管サービス企業に直接連絡する形式とし、事前申請は不要。経費精算によって後日対応できる仕組みにすることで、プライバシーへの配慮と利用のしやすさを両立しました。
制度の適用対象については「年齢制限は設けない」「メンバーのパートナーも含める」と定めました。これは、ライフイベントは従業員だけで完結するものではなく、家族との話し合いのきっかけにもなると考えたためです。実際に男性従業員が卵子凍結の支援制度の導入をきっかけに夫婦で妊活のタイミングを見直すことになり、おめでたいことに第1子に恵まれたという事例がありました。
― 制度を導入する際、社内でどのような意見や議論がありましたか
導入時には、「会社として推奨する制度ではないことを明確に伝えるべき」という意見がありました。卵子凍結は、従業員が“妊活か仕事か”の二択にとらわれずに選択肢を広げる手段のひとつです。特定のライフプランを勧めるものではないという考えのもと、伝え方を慎重に検討しました。
また「制度がビジョンやカルチャーとどう結びつくのかを丁寧に説明しよう」という視点も大事にしました。そのため、制度の導入は一方的な通達ではなく、全社総会で代表自らが制度の趣旨を説明する場を設けました。単なる制度の概要だけではなく私自らが思いを伝えることで、従業員の制度への理解がより深まったと思います。
― 制度導入後、社内では従業員のキャリアやライフプランへの意識にどのような変化がありましたか
先ほどの男性従業員のように、制度導入をきっかけとして妊活やライフプランについて考える従業員が増え、社内の雰囲気づくりにつながっていると思います。例えば妊活で休暇を希望する部下と、それをポジティブに受け止める上司のような関係が構築されています。
当社では「社会の二項対立を溶かす」というビジョンを実現するためのカルチャーとして4つの行動規範を定めており、うち1つが「Happily(幸せに働く)」です。お客様に喜ばれる体験を提供する上でも、従業員の一人一人が仕事にやりがいを感じ、プライベートも含めて幸せに働けていることは重要だと思っています。
卵子凍結制度を導入することで、メンバーにも改めて「Happily(幸せに働く)」を大切にしている会社だと伝える機会になり、カルチャーが浸透するきっかけになったと思います。
― 制度導入に対する社外(メディア・採用面など)の反響はありましたか
「社会の二項対立を溶かす。」「Happily」を体現する制度を追加し「私たちはこのようなビジョンやカルチャーを大事にしている会社です」とプレスリリースを配信しました。当社のカルチャーの象徴的な制度として注目され、メディアの取材依頼や他社からの問い合わせが多数ありました。
採用面では、会社説明会や面接で卵子凍結支援制度について質問される機会が多くあります。男性従業員の育休義務化と共に、当社に対する興味を持ってもらえるきっかけになっていると感じます。
■卵子凍結支援制度は社会を前進させるための仕組み。経営者や担当者が自信を持って発信できるように
― 様々なライフイベント支援制度を利用することで、社員のキャリア継続や生活面にどのようなプラス効果が生まれると思われますか
例えば妊活、妊娠、出産、子育て、産休や育休明けといった場面は、従業員が「この会社でこの仕事を続けるべきか」など自らのキャリアを見直す機会になると思います。会社として複数の支援制度を用意することで「会社が応援してくれてよかった」「この会社となら一緒に挑戦していける」「Timersにもっと長くコミットしたい」と、会社に対して前向きに捉えてもらえるようになると考えています。
― 制度の運用で課題に感じている点や今後改善したい点があれば教えてください
これまでの利用実績は1件です。会社が利用を促す制度ではなく、利用率100%を目指すものでもないので判断が難しいところですが、補助額を増やしたり、新たに加わる従業員への周知を徹底したりと、利用のハードルを下げることは考えていきたいです。
当社には誰でも使えるユニークな支援制度がいくつもあるため、卵子凍結支援の制度が埋もれてしまわないよう周知は強化したいと考えています。たとえば、一人一人に多様な制度を丁寧に説明するのは手間がかかりますが、AIアバターに「Time Capsule」の説明を任せれば、魅力的かつ分かりやすく伝えてくれるのかもしれません。
また、卵子凍結以外では、介護への対応は今後大きくなりうる課題と捉えています。現時点では、当社で明確に介護を対象とした支援制度は整備できていません。従業員が介護に直面した際は既存の制度を使って対応できると今のところは考えていますが、より具体的なサポート策を検討していく必要があると感じています。
― 最後に、卵子凍結の制度導入を検討している他企業に向けてメッセージやアドバイスがあればお願いします
経営陣が妊活なり介護なりのライフイベントについて解像度を高く持てるか否かで制度に大きな差が生じます。従業員の多種多様なライフステージを真剣にとらえることは難しくもありますが、経営者として大切なことだと認識しています。
加えて、経営陣やコーポレート部門の方々には、卵子凍結に係る制度はまだ新しいために導入すると取材を受けたり、さまざまな媒体で紹介されたりとプラスの反響があることを知ってほしいです。採用や広報でのメリットも期待できるでしょう。
経営陣や担当者が制度について深く理解し、自信を持って発信することが、社会全体の前進にもつながると考えています。
担当する方々にとっても、「私も新しい社会づくりに貢献している」「社会をアップデートする制度の策定に携わっている」と、誇りを持って日々の仕事と向き合うきっかけになるかもしれません。当社の取組を知ることが、その一助となればうれしいです。
Interviewee
― 企業紹介
株式会社Timers
2012年設立。従業員数70名程度。主な事業内容は子どもがいる女性向けのキャリア支援事業、金融教育サービス、家族アルバムアプリ等プラットフォームの提供およびライフデザインブランドの運営。
会社と家庭、仕事と遊び、男性と女性、都市と地方などの「社会の二項対立を溶かす」をヴィジョンとし、すべての人が自分らしいあり方を自由に選び、幸せを追い求められる社会づくりを目指す。子育て世代の課題解決推進のため、家族会員150万人以上を対象に、子育て家族向けの写真動画共有・EC・写真撮影・キャリア支援など多岐にわたる事業を展開。個人向けだけではなく法人向けサービスも提供している。