ITインフラの構築・運用を中心に、国内外で事業を展開する株式会社アイエスエフネット。
グループ全体で約2,500人の社員が働き、そのうち2,300人超をエンジニアが占めています。
顧客先に常駐する社員も多い中、営業担当が勤務先との調整に入り、自社の休暇制度を利用できるよう支援しています。
同社が重視するのは、社員のキャリアだけでなく、育児や治療、介護など生活上の課題まで支える「ライフサポート」です。 不妊治療にも利用できる「セルフケア休暇」は、女性の生理休暇を出発点に、社員の声を受けながら用途を広げてきました。 制度の整備や運用上の工夫、制度を実際に使えるものにするための相談体制や社内教育について、CHROの山本さんに伺いました。
同社が重視するのは、社員のキャリアだけでなく、育児や治療、介護など生活上の課題まで支える「ライフサポート」です。 不妊治療にも利用できる「セルフケア休暇」は、女性の生理休暇を出発点に、社員の声を受けながら用途を広げてきました。 制度の整備や運用上の工夫、制度を実際に使えるものにするための相談体制や社内教育について、CHROの山本さんに伺いました。
株式会社アイエスエフネット
最高人事責任者CHRO
山本 英治 氏
■社員が働き続けられる環境をつくる「ライフサポート」
― まず、貴社の事業内容と組織体制について教えてください
当社は、ITインフラを専門とする会社です。顧客企業に対してプログラムやAIなどを動かすためのサーバーやネットワーク、セキュリティを組み合わせて導入・設定し、障害なく動き続けるよう運用しています。
企業でパソコンやネットワーク、セキュリティに関する障害が起きた際の対応も当社のエンジニアの仕事です。エンジニアの多くは顧客先に常駐し、ITインフラの安定稼働を支えています。
国内では札幌、仙台、東京、沼津、名古屋、大阪、広島、福岡などの主要都市に拠点を置き、海外にも展開しています。グループ全体の社員数は約2,500人で、そのうち2,300人超がエンジニアです。また、グループ会社では、障がいのある方を対象とした就労移行支援も行っています。就職に向けた訓練だけでなく、企業から受注した実際の業務を経験してもらうことで、仕事に必要なスキルを身に付けられるよう支援しています。
― 社員のキャリアやワークライフバランスを、どのように支援していますか
これまでは「キャリアサポート」や「ワークサポート」という考え方が中心でしたが、現在は、より広い意味で「ライフサポート」が必要だと考えています。社員が育児や治療、介護などによって働きづらい状況になったとき、会社としてできる支援を行い、働き続けられる環境を整えるという考え方です。
当社にはダイバーシティ推進課があり、働き方や生活上の課題について相談を受けています。相談窓口も複数設けており、ワークライフサポートに関する相談だけでも年間110件を超える問い合わせがあります。常に同じペースで働き続けられる人ばかりではありません。出産や育児によってキャリアが中断されるのではないか、諦めなければならないのではないかという不安を、できる限り拾い上げたいと考えています。
■客先常駐の社員に代わり、営業担当が休暇取得を調整
― 顧客先に常駐する社員が多い中で、自社の制度を利用する難しさはありませんか
最も調整が難しいのは勤務時間です。社内で働く場合はフレックスタイム制度を利用できても、顧客先では先方の勤務時間に合わせなければならず、利用できないことがあります。
一方、セルフケア休暇など当社独自の休暇制度は、顧客先に常駐する社員も同じように利用できます。その際、社員本人だけに顧客との調整を任せるのではなく、営業担当が間に入ります。現場レベルで通常の年次有給休暇の日程を調整することはありますが、定期的な通院が必要になる場合や、まとまった休暇を取得する必要がある場合は、営業担当があらかじめ顧客へ説明し、勤務の調整を行います。
― 営業担当が社員に代わって調整することが重要なのですね
営業担当の姿勢は非常に重要です。営業が顧客の要望だけを優先し、社員の事情を伝えなければ、エンジニアは働きやすくなりません。営業とエンジニアの間に対立が生じる可能性もあります。当社では、エンジニアが事情に応じて休暇を取得できるよう、顧客に対してしっかり交渉するという方針を経営トップが示しています。社員の働きやすさを支えるという点で、営業とエンジニアが同じ方向を向いていることが当社の特徴だと思います。
― 顧客から理解は得られていますか
受け入れていただける場合がほとんどです。顧客も、優秀なエンジニアには長く働いてほしいと考えています。当社としても、顧客から「長く働いてほしい」と思われるエンジニアを採用し、教育することを重視しています。社員が高い技術力と信頼関係を築いていれば、治療などによる勤務調整についても理解していただきやすくなります。
■女性の生理休暇から、夫婦で取り組む不妊治療の制度へ
― 不妊治療・不育症治療を支援する制度について教えてください
不妊治療に特化した新しい制度をつくったというより、既存の休暇制度の名称と用途を広げてきました。もともとの出発点は、女性が生理による体調不良の際に利用する休暇です。その後、名称を「セルフケア休暇」に変更し、ホルモン治療や不妊治療などにも利用できる制度へと対象を拡大しました。
2014年に制定し、現在は月に1日取得できます。不妊治療だけを特別に切り出すのではなく、社員が自分自身の身体や健康のために利用できる幅広い休暇として設けています。不妊治療を目的にセルフケア休暇を取得する際には、治療を確認できる書類を提出することになっています。
― 男性社員も利用できるのでしょうか
現在は、配偶者の通院への付き添いにも利用できます。以前は、社員本人の名義でなければ利用できませんでした。しかし、男性社員から「妻の治療に付き添うために休暇を取りたいが、自分の名前の証明書がないため利用できない」という声が上がったため、配偶者名義の書類でも申請できるよう制度を変更したのです。実際に困っている社員の声を受け、対象を広げた事例です。
― 申請時には、不妊治療であることを伝える必要がありますか
不妊治療を目的に申請する場合は、所定の担当部署に治療を確認できる書類を提出しますが、治療の事実や申請理由を周囲の社員に明らかにする必要はありません。休暇の名称を「セルフケア休暇」と少し幅を持たせたものにしているのも、利用目的を特定されにくくするためです。
不妊治療をしているかどうかを無理に聞き出さないことは、ハラスメント防止規程にも明記しています。治療の事実を誰に、どこまで伝えるかは、本人の意思に基づいて決めます。
― 制度を導入・整備するにあたり、課題となったことはありますか
制度をつくること自体よりも、必要とする社員に情報が届き、実際に使える状態になっているかが継続的な課題です。制度があっても、周囲の理解がなかったり、利用することで不利益を受けるのではないかと感じたりすれば、社員は使うことができません。
■本人の希望に寄り添いながら、相談内容を制度へつなぐ
― 不妊治療をはじめ、働き方に関する相談を社内の相談窓口で受けた際、本人の情報はどのように扱っていますか
本人が、どこまで情報を開示するかを細かく確認します。「上司まで伝えてよい」「人事には共有してよい」「まだ誰にも伝えないでほしい」など、希望する範囲は人によって異なります。
相談内容に応じて制度を改正するためには、相談内容を人事や総務などの関係部署へ共有する必要がある場合もあります。その際にも、相談者本人に共有してよい範囲を確認してから連携します。かなり困っていても、「まだ上司には言わないでほしい」と希望する人もいます。当社には転職に関する相談窓口もあるため、相談内容によっては特に慎重な対応が必要です。本人が望まなければ、情報は開示しないことを基本にしています。
― 相談窓口では、どのように相談者の悩みを解決しているのでしょうか
話を聞くことで、本人の気持ちが整理され、その場で解決する場合もあります。相談窓口だけでは回答できない内容については、相談担当者が専門部署に確認し、その回答を相談者本人に伝えます。制度の新設や改定が必要な相談であれば、人事や総務など必要な部署へつなぎます。早急に会社として対応すべき案件については、代表が方針を示します。
相談窓口は、すでに問題が明確になっている人だけのものではありません。「どこに相談したらよいか分からない」「何となく働きづらい」という段階でも利用できます。悩みが大きくなる前に相談してもらうことが重要です。
■トップメッセージと教育で、制度を安心して使える環境をつくる
― 制度を使いやすくするための会社としての取り組みがあれば教えてください
理由を明らかにしなくても使えることと、制度があることを全社員に周知することです。制度が存在することと、社員が実際に利用できることは別です。必要な社員に情報が届いているか、利用したいと思ったときに相談できるか、使っても不利益を受けないと感じられるかが重要です。
当社にはワークライフバランスの相談窓口のほか、女性向けの「ウィメンズカウンシル」など複数の窓口があります。どの窓口を利用すればよいか分からない段階でも、まず相談できる体制を整えています。
― 経営トップから方針を発信することには、どのような意味がありますか
現場が判断に迷ったときの明確な指針になります。例えば、社員の事情を優先すべきか、売上や顧客の要望を優先すべきか迷う場面があります。そのときに、会社が社員の働きやすさを支援するという方針を明確に示していれば、営業担当や管理職も判断しやすくなります。
当社では、理不尽な偏見や差別を認めないことも、トップメッセージとして発信しています。制度を利用する社員が安心できる環境をつくるには、経営層が姿勢を明確に示すことが必要です。
― 周囲の社員への教育も必要でしょうか
制度と教育はセットだと考えています。不妊治療では、治療の段階によって通院の頻度や内容が異なり、急に医療機関へ行かなければならないこともあります。周囲に知識がなければ、「なぜまた病院へ行くのか」と受け取られるかもしれません。しかし、治療には突発的な通院が必要な場合があると知っていれば、「治療とはそういうものだ」と理解できます。事情を根掘り葉掘り聞かずに受け止めるためにも、正しい知識が必要です。
当社では、性的多様性に関する課題についても、当事者を交えた座談会を開き、そこで上がった声をもとに全社員向けの教育を行ってきました。一般論ではなく、当社の業態や働き方に即した教育にすることを重視しています。不妊治療についても、同様の取り組みが必要だと感じています。
― セルフケア休暇の利用状況に変化はありますか
用途を広げるにつれて、利用は増えています。2024年から2025年にかけて、申請件数は約1.7倍になり、2025年は約50件でした。不妊治療による利用だけを分けて集計しているわけではありませんが、実際に利用している社員がいることは把握しています。
制度の利用目的を細かく集計しすぎると、本人が治療内容を明らかにしなければならなくなります。利用状況を把握することと、プライバシーを守ることの両方が必要です。
― 制度を利用した社員の声が、社内で共有されることもありますか
不妊治療を経験した社員が、新入社員研修で自分の体験を話した事例があります。当社では新卒社員に加え、中途採用の社員も毎月入社しています。研修の中で、さまざまな経験を持つ社員が自身の体験を伝える時間を設けています。
当事者の体験を直接聞くことで、制度が単なる規則ではなく、実際に社員を支えているものであることが伝わります。また、同じ悩みを抱える社員にとっても、「相談してよい」「制度を利用してよい」と感じるきっかけになると思います。
■柔軟な制度が、社員の安心と人材の定着につながる
― 柔軟な休暇制度は、会社と社員にどのような効果をもたらしますか
最も大きいのは、優秀な社員の離職を防げることです。
治療や育児などによって働きづらい状況になったとき、支援する仕組みがなければ、社員は退職を選ばざるを得なくなるかもしれません。
会社として可能な範囲で働き続けられる環境をつくることは、人材の定着につながります。
また、現在は制度の対象ではない社員にとっても、安心材料になります。「将来自分が何か困ったときにも、会社はできる限り支援してくれる」と感じてもらえることが重要です。男性社員からの要望を受けて、配偶者の不妊治療への付き添いにも制度を利用できるよう変更したことは、その一例です。自分の状況が現在の制度に当てはまらなくても、相談すれば会社が考えてくれるという信頼につながります。
― 採用や復職にも効果がありますか
採用においても、単に「社員が働きやすい会社です」と伝えるだけではなく、具体的な制度や支援事例を示すことができます。
当社には育児休業、復職後に最大2時間勤務を短縮できる時短正社員制度、学校行事のための休暇などもあります。復職率は非常に高い水準を維持しています。
― 働きやすい環境づくりは、社員のキャリア形成にも影響していますか
女性管理職比率も上昇しています。当社では、性別や国籍によって管理職になるための壁を設けず、本人の能力を基準にしています。ただし、妊娠や出産を考え、管理職への挑戦をためらう人がいる可能性はあります。治療や育児と仕事を両立できる環境を整えることは、その後のキャリア形成を支えるうえでも重要です。
■社員の実際の悩みから、次の制度をつくる
― 今後の展望を教えてください
一般的に必要だと言われているから、流行しているからという理由で制度をつくるのではなく、社員が実際に抱える悩みをきっかけにして制度をつくりたいと考えています。当社では、障がいのある社員や性的マイノリティの社員など、当事者を交えた座談会を開き、そこで上がった声を制度や教育に反映してきました。代表や人事責任者、ダイバーシティ推進の担当者も参加し、必要な対応を検討します。
制度をつくった、社内教育を行ったという実態のある取り組みが重要です。社外に良く見せるための制度ではなく、社員が実際に困っていることを解決する制度でなければなりません。不妊治療についても、治療の内容や通院の必要性を社員が理解できる教育を進めたいと考えています。今後は介護についても社員の声を拾い、必要な支援を検討していきます。
■不妊治療だけに特化せず、多様な働き方を支える制度の一つに
― 両立支援に取り組む企業へ、メッセージをお願いします
制度をつくり、それが社員に受け入れられ、実際に使われている状態が成功だと思います。不妊治療のための制度だけを単独で設けると、社員の間で「なぜその人たちだけなのか」という不平等感や不公平感につながる可能性があります。
育児、介護、健康上の事情、障がいなど、さまざまな働きづらさを支える制度を整え、その一つとして不妊治療への支援を位置づける方が、社内の理解を得やすく、制度も利用されやすくなると思います。一つの事情だけに特化するのではなく、誰もが何らかの理由で働きづらくなる可能性があることを前提に、幅広い支援を考える。その中で、社員の声を聞きながら不妊治療支援を深めていくことが大切です。
Interviewee
― 企業紹介
株式会社アイエスエフネット
2000年設立。国内従業員数2,528名。東京本社をはじめ国内主要都市、中国、韓国、シンガポールに拠点を置き、クラウド、ネットワーク、セキュリティなどITインフラの構築・運用を手掛ける。
不妊治療や配偶者の通院付き添いにも使えるセルフケア休暇をはじめ、時短勤務や各種相談窓口を整備。客先常駐社員の休暇取得も営業担当が支援し、社員の声を制度や社内教育に反映している。
(企業に関する情報は令和8年6月1日時点の内容)